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彼はよく原稿用紙に手紙を書いてきた。はっきり行って判読が難しい悪筆だ。悪筆にかけては私も人のことが言えないのでまあがんばって解読した。「僕」と言う一人称と「小生」と言う一人称が混じっていた。古風な人だなあと思ったが、このときはあくまでも自分と同じくらいの高校生だとばかり思っていた。頭がよくて、気味の悪い本ばかり薦める、高校生男子。
ところが実際は私より十一歳年上だったと知って驚くまいことか。先輩後輩を通り越して教師と教え子の関係になる。私は手紙の文体を丁寧にした。
Iが短大で学祭をするときに同人誌の仲間を呼んだので来いという。高校二年の秋だった。彼も来ることになっていてJRの駅でみんな待ち合わせることになっていた。
子供なら一人は簡単に入るだろうという使い込まれた革のかばんを横に置いて彼はいた。「…さんですか」私は二十代の男性と言うものをまじまじ見ていた。同級生の少年らしさはすでにうせ教師のような包み隠された男性らしさと違う、肉体労働をする男、と言うものを見た。節くれだった手に生えた剛毛。
(熊だ…)私は絶句した。同じく現役女子高生でも子供っぽい体つきの私を見て彼は絶句した。後々聞くと、このとき彼はいけない気持ちになってしまったのだと言う。